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本会は明治40年(1907年)5月19日(旧暦4月8日＝釈尊の降誕日)東中洲共進館において創立発会式を挙げたのに始まる。当時は京都帝国大学福岡医科大学仏教青年会と称し、主として医科大学内の学生、看護婦、教職員、患者の間に仏教精神に基づき一宗一派に偏せず仏教の妙理を会得し心の据(すわり)をつけさすを目的としていた。明治44年(1911年)学制改革に伴い九州帝国大学仏教青年会と改称した。大正6年10月博多万行寺における九大医学部主催の解剖祭の後で、本会主催、看護婦若葉会協賛の動物慰霊祭が行われ、これは今日も続いている。
大正7年（1918年）医学部皮膚科教授旭憲吉博士が会長に推されるや、博士は鋭意会の発展に努力され、同年8月31日博多承天寺内祥勝院に於いて施療院を開設し、自ら診療に当り会員を督励せられたので、この成果大いに上り、仏陀の慈悲の光は普く低所得者、困窮者の上にも輝くに至った。
大正10年(1921年)6月6日社団法人に認可され、かくて本会事業も漸く軌道に乗るに従い、その活動の源泉ともなるべき会館及び寮の必要性が痛感され、旭会長を初め会員一同前後五年にわたる努力と大方の支援とにより、大正15年(1926年)3月福岡市今泉町(現渡辺通四丁目)に会館及び学生寮が建設され、ついで卒業生の独身寮も附設され、会の一切の事業はここで行われ、ここが会員の中心道場となった。かくして本会は益々隆盛に赴き、同年11月21日には附属中央日曜学校が開かれ、児童の宗教的情操教育に力を致し、昭和2年(1927年)10月3日には法律扶助部(Legal Aid)を開設し、人間の正当な権利の保護と義務の自覚とを促す道を開いたのである。ここにおいて本会はその実行機関をほぼ完備し、各部の緊密な提携の下にその総合的機能を発揮し得るに至った。かくして着々発展してきた本会の活動は、その時代の社会的情勢その他の事情により、時に盛衰はあったが、本会の事業とその精神は変わることなく受け継がれ、戦中戦後の混乱にもめげず、一早く立ち直ることができた。
昭和22年(1947年)11月1日学制改革に伴い、本会も九州大学仏教青年会と改称し、翌23年12月には社会事業法による事業施設としても認められ、施療院を診療部と改め、広く一般に開放すると共に、低所得者には医療費の減免を行い、無料健康相談日をも設け、また暑中休暇を利用して無医村、準無医村への巡回診療や癌の集団検診をも行うなど、僻村住民の健康や予防医学の方面にも力を注いできた。一方、法律扶助部や日曜学校の方も鋭意再建に努めてきた。かくて全国仏教青年会中、仏教精神に基づく唯一の社会事業団体として認められるに至った。昭和32年(1957年)5月19日、創立五十周年の記念式典が挙行され、本会は愈々新しい飛躍の時に入った感があった。
然るに翌33年9月、福岡の戦災復興土地区画整理に当り、本会はその土地建物の三分の一を削られるに至った。止むなく翌34年8月、この削減に伴う会館及び寮の改築を行ったが、辛うじて本会の活動を維持できる状態であった。しかし渡辺通の地は既に市の中心部となり、本会会館及び学生寮の所在地として必ずしも適当ではなくなり、加うるに市の区画整理のため土地建物共に狭隘となり、このままでは本会の活動を続けていくことは困難になった。当時、会員の間からは、渡辺通の地を売却しその代金をもって新たに適当な地を求め移転改築しようとの議が起っていたが、幸いに昭和43年(1968年)9月、当地出身者の有力者の御尽力により土地の売却も出来、市内名島の九州電力旧グラウンドの一角に約870坪の土地を譲り受け、ここに九大建築学の青木博士の指導の下にメイ建築研究所の設計、株式会社高松組の施工により、会館及び寮(学生24名、卒業生6名を収容し得る)とも合わせて約400坪の鉄筋コンクリートの建築竣成、44年8月中旬に移転、ここに一大飛躍を試み、もって大方の御支援に応えたく、特に急激に人口の増加しつつある名島以東の地に従来仏教関係の建造物が皆無の状態にあったのに 鑑み、本会館及び寮を一拠点として、地域市民の皆様に親しまれつつ、仏教精神の自覚と普及浸透を図るために特段の活動を展開し得るに至った。
こうして名島の地(現在千早に地名変更)に本拠を移した本会は、地域の要望に応えること大にして、診療部は夜間診療、無料健康相談を通じ地域住民の健康衛生の向上に努めた。また、宮崎県日之影町への無医村巡回検診も好評を博した。さらに、日曜学校は地元子供会との密接な連絡の下、一学年に20名の卒業生を送り出すに至った。また法律扶助部は、県内のみならず、県外からも遠路多数の相談者が訪れ、法律に日常接することの少ない民間の拠り所としての役割を果したのだった。
然るに、時代の変遷は激しく、1960年代の学生運動は、この本会をも例外とすることなくその余波の中に巻き込むこととなった。以後、社会状況は急速に変化を遂げ、物質文明の豊かさは精神文化を凌駕するかに見えるまでとなり、本会の行う奉仕活動がともすれば時代の要求と合致しなくなりつつあった。また学生気質の変貌も同様であり、年々学生数は減少を続け、本会の存亡も危ぶまれる時期となった。
折しも建築後16年を経た寮建物の老朽化は著しく、改修工事の必要性が取り沙汰され、時を同じくして本会の将来の展望、時代に即した活動を模索する動きが興り、議論が争鳴した。ついに総会にて決議がなされ、本会は、診療所「九大仏青クリニック」を出発させることとなり、初代院長に本会O.B.でもある山中正義氏(医学博士、昭和37年卒)を迎え、昭和61年(1986年)12月に開院の運びとなった。
この「九大仏青クリニック」は、従来の仏青の診療所の伝統をそのまま受け継ぎ、医療の理想と仏教の精神を求めて歩んでゆかんとするものである。即ち、本クリニックは、最新の医療設備を備えた診療所であると同時に、他の諸病院のモデルとなり得る様な、地域社会に開かれ奉仕の精神に貫かれた病院経営の展開をその目標とする。かくしてまた、本クリニックの収益をもって、これを会の種々の奉仕活動の資金に充て、時代と社会の新たな要求に対応した活動、本会ならではのユニークなボランティア活動(＝主体の本意から自発的におこる奉仕活動)の育成を計ることが本クリニック開設の狙いである。
「九大仏青クリニック」の設立により、本会が将来にわたって奉仕活動を展開してゆくための資金面での準備は整いつつある。今こそ、本会関係者が一丸となってその智慧を結集し、本会の社会奉仕活動の歴史に新たな領域を拓くことを求められているのである。
本会『会報』より転記
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